１バーツ上乗せの米販売どっぷりタイ生活の内田さん

山道の両脇にはタマリンドの木が実を付け、放牧された牛が草を食べるのどかな光景が広がる。

人口10万人弱のタイ北部・ペッチャブーン県のバンワンヒンという村で、その村では珍しい存在の日本人男性が、米を売りながら生計を立てていると聞きつけ、インタビューの旅に出た。

　バンコクから北に約350キロ。車で約４時間かかる。それにしてもこのペッチャブーンは本当にのどか。高い建物はまったくなくひたすら民家が立ち並び、車よりもバイクの方が多い。山がたくさんあり、山のふもとや斜面には農場が広がっている。タマリンドはもちろん、マンゴーの木やトウモロコシ畑が多い。時折、きれいに整備された公園があり、都心からペッチャブーンへ癒されに来るタイ人もいる。

　そして興味深いのが民家の建築スタイル。以前アユタヤの展示場で見たタイ様式の昔の家そのものが、現在もペッチャブーンに多く残っている。高床式で、中２階に寝床があり、１階部分は炊事場やトイレ、休息スペースがある。今回泊まった民家も同様の造りで、２階の床に直接寝たのだが、風通しがよく快適だった。想像より虫が少なく、蚊帳の中で眠ったのでまったく問題なし。

そして各家には大きな水瓶があり、生活用水として使っている。トイレ内にも水瓶があり、その水で顔を洗ったり体を洗ったりもする。昔の日本でも使われていたと思うが、20代の私にとって、シャワーではなく瓶の水を使って体を洗うことに一瞬抵抗を覚えたが、実際に使ってみると意外と平気だった。そもそも都会の生活が潔癖すぎるのだな、と改めて実感（ちなみに私は在タイ９ヵ月）。

　話は戻り、そのペッチャブーンのバンワンヒンに住む男性、内田獣之さん（43）は昨年５月に日本から移住。日本人と会ったのは５カ月ぶりということで、話をしていると時々タイ語が混ざる。

内田さんは今から11年前、バンワンヒン出身のテングさん（39）とバンコクで出会い、結婚。「日本みたいに寒くないし、のどかで住みやすい」と、いつの日かタイに住みたいと思いながら、結婚後は一端日本へ戻り、10年間働いてお金を貯めた。

もともと大の旅好きで、若いころから旅に出ていたという内田さんは、今までにアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパ各国をまわってきたという。その旅の途中、ハブ空港としてバンコクに立ち寄り、今の奥さんに出会ったのだった。

日本では車の修理や水道の配管工事、造船所の仕事をしてきた。本当は30代のうちにタイに移住したかったが、仕事の引き合いがあり、ようやく昨年、念願叶ってタイにやってきた。

　現在、夫婦と12歳になる息子の３人で奥さんの実家に身を寄せ、そこから車で１分の距離にある借家で米屋を営んでいる。問屋から仕入れた約20種のお米と、飲料水や調味料などを売り生計を立てているというが、儲けは月にどのくらいなのだろうか。米は１㌔あたりの仕入れ値にたったの１バーツ上乗せして販売している。

地元の人に買ってもらうためにはこれ以上高くすると買ってもらえないそうだ。たとえ汗水たらして月６トン売ったとしても利益は６０００バーツ。そこから家賃や光熱費を差し引くと、かなりギリギリの生活になる。米屋なので米には困らないものの、おかずはコブラを使った「トム・ヤム・ンゴー」、醤油漬けしたリスの燻製、モグラ、カエル、バッタ、蜂の子などを食べているというから驚く。だが、コブラやリス、モグラは鶏肉に似た味で結構イケるらしい。

　こういったのんびりした生活が好きなのかなと思いつつ、実は「定収入を得られる職に就きたい」というのが内田さんの第一希望。タイに移住後、インターネットで情報を得ながら、バンコクやチェンマイ、アユタヤ、サラブリなど工場関係の面接を何度か受けたが決まらず、昨年暮れから米屋をはじめたそうだ。

　求人は35歳以下が多く、専門的な資格がなく、タイ語が少ししかできない内田さんは職探しの難しさを感じている。「日本に帰りたいとは思わないので、ご縁があれば定職に就きたい」と話す。

　もともと「流れに身を任せ、あまり物事を深く考えすぎない性格」という内田さんはごく自然体の人。タイに暮らす念願は叶ったので、次のステップに向けて、米屋を営みながらもタイ語の勉強を続ける生活を送っている。

内田さんデータ
言語：福岡県出身で九州なまり少々
パソコンスキル：ワード、エクセル、パワーポイント
仕事スキル:車修理、配管工事など
希望地域:タイ全国（なるべく田舎を希望）
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